freeduは公教育の話題を多く提供していますが、今回は塾・家庭教師等の民間教育の話題です。
英投資ファンドのCVCキャピタル・パートナーズが「家庭教師のトライ」で有名なトライグループ(東京・千代田区)を1,100億円程度で買収することが10月11日に分かりました。買収額にも驚きますが、この買収は、今後の教育界にとって、どのような意味があるのでしょうか。
トライグループとは
「アルプスの少女ハイジ」のCMで有名なトライグループですが、個人塾を経営していた創業者平田修氏が、富山大学の学生が作った家庭教師サークルを1987年1月に「富山大学トライ」として創業したことが始まりです。その後、1990年4月に「トライグループ」として設立。平田氏は2000年に元女優の二谷友里恵さんと再婚した後、2005年にトライグループの社長を二谷さんにに譲り、自らは会長に就任しています。
トライグループは祖業である「家庭教師のトライ」から発展し、2000年は個別支援塾事業「個別教室のトライ」も開始、現在は
などを展開。全国200以上の自治体・行政機関・学校等への学習支援もしています。
トライグループは全国に1100箇所の拠点を持ち、登録家庭教師数は22万人(2019年8月時点)と、全国シェア約1割の業界最大的です。トライグループは非上場ですが、2021年5月期の売上高は約500億円と、上場企業では東進ハイスクールを手がけるナガセと同規模。トライグループはこの数年増収基調で、EBITDA(税引き、利払い、償却前利益)は80億円強と収益性も業界内では高いのです。
トライが全国展開を始めた頃、レーシングカーコンストラクター「童夢」が1995年にF1に挑戦しようとしたとき、そのスポンサーになったことでも話題となりました。
CVCキャピタル・パートナーズとは
欧州を中心とする投資ファンドで世界的大手。以前はF1 の大株主でもありました。
CVCキャピタルが運営するファンドは、主に企業価値が5億ドルから15億ドル程度の企業に対して投資を行うことが多く、投資対象は、主に小売業、製造業およびサービス業の企業が多い。
Wikipediaより
出資者は、民間企業、公的年金基金、金融機関、保険会社、大学寄付および個人投資家など。
CVCキャピタル・パートナーズは長期的な投資を行うことで知られており、取得した企業株の所有期間は平均して5年間程度であるとされる。
短期的に企業株式を保有するヘッジファンドとは異なり、CVCキャピタル・パートナーズは長期間に渡る資本注入を通じて投資先企業の事業再編を図るのが特徴。
日本企業との関連だと、資生堂の「TSUBAKI」を含む日常日事業の買収で知られています。また、 2021年には東芝の買収検討でも話題となりました(のちに撤回)。他に
- 信和
- すかいらーく
への投資も行っています。
この買収の意味は?
この買収で注目すべきポイントは
AI
個別最適化
です。
トライグループでも「トライ式AI診断」など、AIにより個々に応じた習熟度診断をして学習課題を設定することを売りとしています。買収後はこのAI関連による投資を増やし競争力を高める方針です。CVCは買収後3~4年で上場させる意向とみられています。
また、コロナ禍の影響で対面授業が難しくなり、教育ビジネスでは「オンライン化」が進んでいます。「デジタル投資」が生き残りを左右する要因となっているのです。
学習塾・予備校・家庭教師の市場規模はここ数年1兆円近く(矢野経済研究所調べ)で推移しています。オンライン化に対し資本力のある大手は対応を進めていますが、中小の学習塾は遅れが目立っており、今後再編が進む可能性が高いです。
CVCはトライのAI対応、オンライン対応を一段と加速させると見られています。増資により学力診断などに使用するAIの精度向上や新たなサービスの開発を進める見通しです。CVCはオンライン大学Pegasoを運営するイタリアの企業に投資するなどの投資経験を生かし、トライの企業価値を高めようとしています。
両社は月内にも買収契約を結ぶと見られています。CVCは買収のために特別目的会社を設立し、創業者の平田修会長らからトライ株を全株取得。その後、平田会長と二谷友里恵社長は売却で得た資金を活用してSPCに再出資することで、経営に一定程度関与するとの見通しです。
公教育への影響は?
全国の小中学校では「GIGAスクール構想」による1人1台端末の普及が実現し、これからは「整備」から「活用」へフェーズが動いています。公立の小中学校でもこれからは、
- 紙のドリルからAIドリルになり、一人一人の習熟度に応じた課題設定ができることになる
- (スタディサプリのような)動画コンテンツを活用して学習を進める
ということが当たり前になってくるでしょう。
そしてこのような学習コンテンツを教師個々が、教育委員会が用意するにはスキルにも時間にも予算にも制約があります。つまり、このような教育ビジネスの再編には、公教育に教育ビジネスが本格参入する前兆と捉えた方がいいのです。
このような時代には教師は直接目の前の児童生徒に教える「ティーチャー」としての役割より、それらの学習コンテンツを組み合わせる「コーディネーター」、個々の学習や活動を集団の活動に発展させる「ファシリテーター」としての役割が求められるようになるでしょう。
教師も教育委員会の施策に振り回されるのではなく、業界の動向を見通すことが必要です。今のうちにそれぞれの企業にはどのようなコンテンツがあるか調べ、自分ならそれをどのように利用するか考えるなど、準備を進めておく必要があるでしょう。
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