サイトアイコン freedu

PISAが問う「これからの学力」をブログ記事から考える

2020年1月30日 AMPブログから

本サイトでもしばしば、PISA調査で日本の読解力が15位に下落したことを紹介しています。

しかしそもそもPISAとは何なのか、テストの目的は何なのかについて、理解している方は少ないのではないでしょうか。
とても分かりやすくまとめているサイトがあったので、その記事を紹介しながら解説します。

PISAとは、どのようなテストなのか

そもそもPISAテストは、「子どもの学業成績は、将来の収入や国の生活水準と相関がある」という前提のもとに、2000年からOECDが各国の15歳(多くの国で義務教育が終了する年齢)の生徒の学習到達度を測定するために3年ごとに実施している学力テスト

数学的リテラシー・科学的リテラシー・読解力の3つのカテゴリーでスコアが出される。

昨年結果が出た最新の調査(2018年実施)には79か国が参加した。それぞれの国から偏りの出ないよう無作為に抽出された数千人の生徒が参加する。

そもそもこのテストは学力のみならず生徒の学習環境や学校の予算など、それぞれの国における教育の現状とその格差を洗い出す目的も大きくなっている

2020年1月30日 AMP 『PISAに変化を強いる「これからの教育が目指すべきもの」とは? 世界経済フォーラム「今、教育評価に起きている変化」』より

それぞれの国の子供の学力を調査し序列をつけるものではないのです。
そしてPISAテストの責任者を務めるドイツ人統計学者/教育研究家のAndreas Schleicher氏は次のように述べています。

テストの結果において女子と男子に理数系の成績に差は見られないのにIT・科学関係の職業への指向には大きな差があること、同様にスコアは同じでも経済的に恵まれない生徒は裕福な生徒よりも低いキャリアを目指す傾向があることなどを指摘し、「PISAテストは、不可能を可能にするためでなく、可能なのに見過ごされていることを実現するためにあるのです」とコメントを締めている。

2020年1月30日 AMP 『PISAに変化を強いる「これからの教育が目指すべきもの」とは? 世界経済フォーラム「今、教育評価に起きている変化」』より

このように本来の目的は教育格差を洗い出し是正するための方針を調査国が打ち立てるための基礎資料とするものです。
しかし本来の目的から離れ、この調査の結果に一喜一憂し、調査結果を上げることが目的になってしまっている傾向があります。それは日本に限ったことではありません。

PISA調査に対する批判

2000年に開始されたこの「教育オリンピック」でより上位に食い込むことに参加国の面々が躍起になり、著しくは国の教育方針を決める際にPISAテストを意識する国が現れたりするのにそう時間はかからなかった。

2020年1月30日 AMP 『PISAに変化を強いる「これからの教育が目指すべきもの」とは? 世界経済フォーラム「今、教育評価に起きている変化」』より

そのため、PISAに対し次のような批判も寄せられています。

現在までにPISAテストに寄せられた批判の中で最も有名なものは、80名の各国の教育研究者たちが2014年に先述のSchleicher氏に寄せた(現在までに賛同者は130名にのぼっている)公開書簡。

彼らはその中で現在の世界的な教育倫理の基本と同テストの矛盾を指摘し、実施と結果の公開が各国の教育システムに「ダメージを与えている」と主張した。

PISAテストが批判を受けた部分は以下の通り。

・世界の「点取り競争」を過熱させている。
・3年の評価サイクルは、教育に一定の変化の結果を出すには短すぎる。
・物理・道徳・芸術・社会など重要な科目が欠け、それらが重要でないかのような印象を与える。
・OECDは経済発展に寄与するための組織であり、子どもの幸福や教育は対象外のはずである。教育は経済への貢献によって評価されるべきではない。
・PISAの実施とフォローアップのために多くの官民パートナーシップが採用され、ビジネスの道具にされている。
・機械的に点数を測るテストの大きな影響力により、現場にプレッシャーを与え、教師の裁量を奪っている。

また、欧州連合(EU)も共同声明の中でほぼ同様の点に懸念を示し、「PISAの結果は各国の教育政策のために賢く利用されるべきものであって、現場が影響を受けるべきではない」という立場を明確にしている。

2020年1月30日 AMP 『PISAに変化を強いる「これからの教育が目指すべきもの」とは? 世界経済フォーラム「今、教育評価に起きている変化」』より

これらの批判に対して、Schleicher氏は次のように答えています。

「これからの世界においては、知識の量ではなくその使い方が問われるようになる。PISAテストもそれに見合った変革が見込まれている」とし、2021年の新人事より、創造的思考・思考の柔軟性・探究心・持続性などを問う内容に大きくシフトする方向性を示した。

2020年1月30日 AMP 『PISAに変化を強いる「これからの教育が目指すべきもの」とは? 世界経済フォーラム「今、教育評価に起きている変化」』より

これからの子どもに求められる能力とは

そして氏は、2019年にイギリスで催された教育会議でこう語っています。

教えるのも、テストと点数で測るのも簡単な能力は、AIがとって代わるのも簡単なスキルなのです。計算はロボットにもできる。しかし同じ数学の問題を解くにあたって、人間は想像し、創造し、疑問を持ち、協力することができる。これこそがこれからの子どもが磨くべき能力です。

AIの出現により、私たちは『私たちを人間たらしめる要因』について考える必要に迫られています。現時点で私たちは、仕事の未来に対して全く見当違いの準備をしている。

ロボットが人間の仕事を奪う不安にさいなまれながら、一方でまだ子どもたちにロボットと同じように考えることを教えています。しかしこれからの私たちは、『二流のロボット』ではなく『一流の人間』を育てていかなければいけないのです」。

2020年1月30日 AMP 『PISAに変化を強いる「これからの教育が目指すべきもの」とは? 世界経済フォーラム「今、教育評価に起きている変化」』より

以前こちらの記事で述べたように、AI時代に必要な能力は「人間力」です。コンピュータではできないことをすることに価値があるのです。PISA調査の意図を曲解し、読解力が下落したことを受け読書を増やす、授業時間を増やす、ゲームやスマホから子供を遠ざけるという施策は間違っていることが分かります。

世界経済フォーラムによるレポート「仕事の未来」によれば、現在初等教育で学んでいる子どもたちが大人になる頃には少なくとも6割以上が現在存在すらしない仕事に就くという。

その時点では技術革新が仕事のあり方を大きく変えており、人間に必要とされる能力は、そのAIを管理するためのテクノロジースキルの他は、創造性、EQ、クリティカル・シンキング、コミュニケーションスキル、多様性に対する理解などの「人間力」、そして今後テクノロジーにより変化が加速していくとされる世界で変化を恐れず常に新しいことを学ぼうとするマインドセットであるとされている。

一説には、経済成長期には学生時代に学んだ知識の「半減期」が30年あったのに対し、これからはそれが6年程度に短縮されるとも。

ものすごくざっくり言うと、これからの教育において子どもたちは「現時点でのテクノロジー知識」「人間力」「生涯新しいことを学び続けるマインドセット」を身に着けることを望まれるといっていいだろう。

2020年1月30日 AMP 『PISAに変化を強いる「これからの教育が目指すべきもの」とは? 世界経済フォーラム「今、教育評価に起きている変化」』より

日本の教育の現状はどうなっているのか

多くの方に「日本の教育は詰め込み教育」と誤解しているのですが、初等教育についてはその認識は間違っています。諸外国に比べても、「対話的な学び」「協働的な学び」をしている傾向があるのです。

Schleicher氏は、日本の取り組みを高く評価しています。

PISAテストの方向転換に沿って教育改革を成功させた国を尋ねられると日本を挙げ、「日本は近年、教育内容の30%を削減し、その時間をディープラーニングやクリエイティビティの醸成に振り替えました。近年はイギリスの方が余程、暗記重視型に見えます」と。

2020年1月30日 AMP 『PISAに変化を強いる「これからの教育が目指すべきもの」とは? 世界経済フォーラム「今、教育評価に起きている変化」』より

2003年のPISA調査の結果日本の学力が低下した「PISAショック」を受け、ゆとり教育が批判され、学習内容や授業時数が再び増えました。そして次の2006年調査で学力が上がったことから、「ゆとりを止めた成果が出た」と思われたものです。
しかし、2006年にPISA調査を受けた子どもたちは、小学生のときに「ゆとり教育」を受けた子どもたちです。教育の成果は短期間では出ません。ゆとり教育を受けたから学力が上がったと見るべきなのです。

「人間力」をテストで調査することには限界があります。しかし、PISAがそのことを調査しようと試みていることは評価できることです。
日本もテストの点数、国際的な順位に一喜一憂するのではなく、

ということについて、官民一体となって考える資料とすべきなのです。

『PISAに変化を強いる「これからの教育が目指すべきもの」とは? 世界経済フォーラム「今、教育評価に起きている変化」』2020年1月30日 AMPブログはこちら

モバイルバージョンを終了